2000-04-04

2011年4月4日(金)天聲人語

 東北を代表する川といえば日本海に注ぐ最上川と、岩手県を南流し

て宮城県石巻市で太平洋に出る北上川だろう。その北上川は全長24

9キロにおよぶ。こんな一首がある。〈川幅の太さのままに海となる

北上川の長き圧力〉高橋みずほ

 だが大津波は、その滔々(とうとう)たる「圧力」を押し戻して、

川を50キロもさかのぼっていた。分析をした東北大教授によれば、

国内に記録が残る津波の遡上(そじょう)は十数キロぐらいが多い。

数字は、今回の地異の激しさを物語る

 被災地を歩くと津波の届いた高さに驚く。役場の支所や学校など、

安全なはずの指定避難所を各地でのみ込んだ。北上川河口にあった支

所は想定された津波の最高水位より高くに立っていた。しかし全壊し

、身を寄せた49人のうち助かったのは3人だけだった

 隣の南三陸町では、3階建て、高さ11メートルの堅固な防災対策

庁舎の丈を軽くこえた。屋上でフェンスにしがみついた多くの職員が

流されていった。赤い鉄骨だけを残し、漁網やブイがからみついたそ

の廃虚が痛々しい

 地震翌日の小欄で引いた寺田寅彦は、日本の自然には「慈母の愛」

と「厳父の厳しさ」があると述べている。慈母とは、たとえば豊かな

幸を育む三陸の海であろう。だが厳父と呼ぶにはこの天災は酷に過ぎ

る。手加減なしの折檻(せっかん)さながらだ

 〈やはらかに柳あをめる/北上の岸辺目に見ゆ/泣けとごとくに〉

啄木。被災地にはなお悲嘆と慟哭(どうこく)がやまない。いのち萌

(も)える春よ、どうか慈母の優しさでみちのくを包めよ。

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